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銭湯は表現の場だ(3/3) 「表現」の担い手は20代

【この記事は、株式会社ポッセ・ニッポン代表の堀江が、一般社団法人公開経営指導協会の会報誌に掲載した連載を再編集したものです。小さくても、特色ある中小企業の姿をご紹介します。前の回はこちら「銭湯は表現の場だ(1)--ニコニコ温泉株式会社」「銭湯は表現の場だ(2/3)怒号飛び交う再開初日」】


 伝統的な銭湯の雰囲気を残しながらも、伝統の枠からはみ出したさまざまなアイデアは、ニコニコ温泉株式会社に集う若い感性から生み出される。同社が運営する東京浴場(東京都品川区)で働く同社従業員は、20代の若者が中心だ。有名大学を卒業して大企業から転職してきた人もいれば、美大出身者もいる。

 浴槽が接する壁に貼ってある、スタッフ手作りの壁新聞が楽しい。手書きで、自分のおすすめの店や本を紹介する人、洗濯機でおにぎりを洗ってしまった(!)という失敗談や、他県の銭湯に修行に行くという人の抱負などが書かれていて、読むのがとても楽しい。すべて手書きの、白黒のコピーなのに若いエネルギーが伝わってくる。


 「こんなに若い子たちが集まるとは思わなかった」と話す真神友太郎社長だが、一方で「コンテンツは万人にある」とも考えている。つまり、誰もが表現者であり、またそれを広げていく場はどんどん広がっているという意味だ。

 さまざまな「表現したい気持ち」と、自由な発想を持ちながら真摯に自分の働き方を探し求めて銭湯につどう若者たち。「こうした価値を銭湯に落とし込むと、ピッカピカによみがえるのを感じている」(真神社長)。銭湯という古くから親しまれてきた場が媒体となり、若い感性が付加価値を生み出している。

(写真は、同社が東京都昭島市で運営する富士見湯のTwitterアカウントより)


「一国一城」のあるじを夢見て

 

 若い自由な感性に対しては時に、ネジを締める必要もある。

 真神社長が考える銭湯運営の三原則は、安全であること、高い商品力、それから接客力である。若い世代が自由にアイデアを拡げていくのは良いが、例えば待ち合わせスペースの吹き抜けまである書棚の設計図には当初、上部に手すりが含まれていなかった。もちろん安全対策上、手すりを付けさせた。

 そして商売を行う以上、マネタイズを常に意識しなければならない。スタッフの中には「将来は小さな店を持ちたい」と考え、書店を開くことを目標にする人もいる。自分らしく生きることの手段(あるいは目的)として店を持つことまでは描いているものの、現実的な厳しさについての認識が甘い場合もあるので、コンサルタント出身の真神社長が商売のノウハウを叩き込んでいる。

 従業員らは表現すること、つまり同社において商品やサービスを作り出していくことには熱心だが、その商品の売り方やタイミング等については、「ちょっと反応がイマイチ」(真神社長)だとも感じている。一方で、ボイラー焚きや日々の掃除などの労働を重ねる上で、銭湯が次々と廃業していく現実を骨身にしみて感じてもいるようだ。

 それぞれが将来、一国一城のあるじとなる日を夢見る従業員たちのために、真神社長は経営塾を毎週開いて経営に必須の知識を伝授している。そのことが結果として、業界の活性化にもつながると考えている。(おわり) (取材時期:2020年11月)